2018.08.17
インターネットはもう何年も前に飽和を迎え、カルチャーの場を賑わすアーティストはどんどん若年化していった。1、2年の短い間で、自分の置かれている状況がガラッと変わってしまう。そんな世の中だ。しかし、26歳と25歳の彼らは顔色を変えず「そこに恐怖感はない」と一蹴する。

Pee.J Anderson(ピー・ジェイ・アンダーソン)は、Al Jarriem(アル ジャリーム)とJOMNI(ジョムニ)による音楽ユニット。ジャンルは主に「ディープ・ハウス」だ。「スタイルで勝負をしない」という彼らの自由で寛大な志向は、彼らのシンプルな音楽に鏡のように写し出される。

ぜひ彼らの音楽を聴きながら、この話を読んでほしい。Pee.J Andersonは、9月2日に開催のInterim Report edition3に出演予定。

#CirCuration
CirCuration(サーキュレーション)

渋谷のエンターテイメントスペース「CIRCUS Tokyo」と Interim Report の共同プロジェクト。山中麻里(CIRCUS Tokyo)が選ぶ次世代のアーティストに、スポットライトを当てる。 CIRCUS Tokyo

僕は音楽が作れて、彼は音楽の知識がある

──なぜPee.J Andersonっていうユニット名なんでしょう?

左:Al Jarriem /右:JOMNI

JOMNI:名前の由来は僕がPEE(ピー)っていう名前でDJをしていて。森さん(Al Jarriem)は、なんでか知らないんですけど、一時期、自分のことを「ジェイクや」って呼んでて。

Al Jarriem:外国人と友達になったときは「ジェイクや! よろしく」って言ってて(笑)

JOMNI:そのJをつけて「Pee.J」

──なるほど(笑)

Al Jarriem:「Anderson」は語感ですね。『マトリックス』のネオの本名、アンダーソンがいいなぁって思って。

──今おいくつですか?

Al Jarriem:僕が今年26歳で、

JOMNI:僕が25歳ですね。1つ違いです。

──Pee.J Andersonは、どっちからアプローチして始まったのですか?

JOMNI:もともと僕と森さんは大学の同じサークルだったんです。僕はDJをしていて、森さんはヒップホップとかのビートものを作ってたんですね。

僕は森さんが作る曲のコード感がめっちゃ好きだったんです。で、「森さんのコードでハウスとか作ったらめっちゃオモロくないすかね?」ってツイートしたら、森さんが「やろうや」って声かけてくれてPee.J Andersonが始まりました。

──2人の役割はどのようになっているんですか? JOMNI:森さんが鍵盤でコード進行を考えて、ビートは僕が作ったり、森さんが作ったり。で、そのコードの上で僕がベースを弾いたり。森さんもシンセのベースを入れたり、で…

Al Jarriem:……えっ、その説明わかりにくっ(笑)

──(笑)

JOMNI:(笑)

Al Jarriem:じゃあ僕の見解で言いますね。これお互い違うんですよ。



Al Jarriem:あの、僕は曲が作れるんですよ。で、彼はハウスをわかっているんですよ。文化としてのハウス音楽を。僕はどちらかというと、音楽のコード進行とか曲の作り方を勉強してきたタイプなんです。だからお互いないものを持ってるんですよ。

Interim Report edition3でのパフォーマンス

──9月2日のInterim Report edition3に出演いただきますが、どのようなパフォーマンスをする予定でしょうか?

JOMNI:パフォーマンスは、PCと楽器を用いたライブ演奏です。DAWソフトでシーケンスを鳴らして、そのうえで演奏したり歌ったりして即興的に展開させていきます。一応、二人でしかできないことを目指しています。

──「二人にしかできないこと」とは、具体的にどんなことを考えていますか?

JOMNI:具体的には、片方が歌を歌っている間にサンプルパッドを叩いたり、片方が展開を作っている間にギターソロを弾いたり、何か動きのあるライブができるように模索しています。

それはそれでとてもかっこいいし好きなのですが、電子音楽のライブって動きのないものも多いので。せっかく二人いるので、何かとやって楽しもうと思います。

制作は必ず一緒にやる

──普段、曲の制作はどのような環境でやっているんでしょう?

JOMNI:DAWソフトは、Ableton Live(エイブルトン・ライブ)を使っています。

Al Jarriem:僕らハードシンセを持ってなくて、全部Ableton Liveで作っています。

──ソフトしか使わないのはこだわりなんでしょうか?

Al Jarriem:いや、お金がないだけですね(笑)

JOMNI:最初はドラムマシンのRoland TR-8を使ったりしてたんですが、僕の家にあって運ぶのが大変なんで。

──DAWの使い方はどのように修得したんですか?

Al Jarriem:僕は大学のときからビートを作っていたんで、そこで独学しました。

JOMNI:僕も森さんと一緒に触りながら慣れていった感じですね。

──たとえばYouTubeとかでチュートリアルとか見て?

Al Jarriem:はい、そうですね。

──制作するときは、どのように2人は連携しているんですか?



JOMNI:リアルで2人で一緒に作っていきます。ファイルを送り合うみたいな作り方はしたことないですね。

──それにはどんな意図があるんですか?

Al Jarriem:2人で同じ時間、同じ場所でモニターに向かわないと、どうしても2人の良いところが混ざったものは生まれないんですよね。

たとえば適当な音をMIDIで弾いてたりすると、片方が「それなになに? めっちゃイケてるやん!」みたいにピンとくることも起きるし。1人やったら切り捨てるようなものでも、うまいこと形になってくる。ファイルを送り合うだと、個々に作ったものを重ねていくだけですからね。

──じゃあPee.J Andersonの曲って、どの時点で完成するのでしょう? 多分、気分によってはいくらでも変わっていきますよね。

Al Jarriem:普通の作曲なら、曲の展開とかストーリーが決まってから1曲が出来上がると思うんですけど、僕らはワンループでも最高の小節ができたらそれが曲に直結しますね。

──なるほど、じゃあ1曲を作り上げるって言うより、瞬間的にどんどん出して行きたいわけですか?

Al Jarriem:そうですね。

JOMNI:だから森さんとかは、けっこう時間をかけた曲でもボツにして次に進めたりするんですよ。新しいことをするためにボツにできることはとても大事にしています。

「ライフスタイルを変えるため」に上京

──そもそも、なぜ京都から上京したのでしょう?

JOMNI:就職ですね。

──あっ、じゃあこの話は終わりですね…(笑)



Al Jarriem:いやいやいやいや!

JOMNI:あっ待ってください!(笑)

Al Jarriem:これは終わったらダメな話ですよ。

JOMNI:すみません、これは重要な話でした。

“僕”は就職なんですよ。関西で採用されたんですけど、会社の都合で千葉に配属されたんです。そのとき森さんは、京都で社会人として生活していました。

──遠隔の時期があったんですね。

JOMNI:そうですね。僕が京都に帰ったときに一緒に制作していました。で、森さんどうぞ。

Al Jarriem:それを続けるうちに「もう一緒に居ないとやっていかれへん」って思い、京都の会社をやめて千葉県に引っ越してきたんです。こっちで仕事見つけて、音楽やって行くという覚悟で。単純な話、ついて来たんですね。

JOMNI:でも森さんはライフスタイルを変えるために、やってきたんですよね?

Al Jarriem:うん。

──ライフスタイルを変えるため?



JOMNI:あの、音楽プロデューサーのstarRo(スターロー)さんって居るじゃないですか? 彼が日本からLAに引っ越したんですけど、その理由が「ライフスタイル」を変えるためって言っていて。で、森さんも「ライフスタイルを変えるためや」言うて、東京に来たんですよ(笑)

Al Jarriem:「今オレらの状況みたらstarRoさんなんて言うと思う?」って2人で話して(笑)多分starRoさん、「今すぐライフスタイルを変えるために東京に行け」って言うやろな、ということで上京しました。

JOMNI:starRoさんめちゃくちゃ厳しい方なんで。あ、もちろん会ったことないですよ。でも、このままやったらstarRoさんに怒られるよなって。

──なんですかそれ(笑)

JOMNI:っていう話をしたくて(笑)

周りを気にせず、ただ良い音楽を作りたい

──周りにライバル視するような存在はいますか?



Al Jarriem:いや、居ないですね。僕らはスタイルとかスタンスで戦っているわけではないので。良い音楽流して楽しいパーティーができればいい、ただそれだけを考えています。

──自分たちが何かのシーンやカルチャーに属している意識ではないんですね。

Al Jarriem:そうですね。単独で好きなことしています。

でも、「単独で好きなことしている」って言ってる俺かっこいい、みたいなところもあるんですよね。スタイルで戦ってないとか言いつつ、もはやそういうスタイルウォーズをしているのかもしれません(笑)ディープハウス自体もそういう音楽だと思ってるんです。めちゃくちゃシンプルなのにカッコいいっていう。

──今後のビジョンはありますか?

Al Jarriem:まぁ、あとは成り行きかなぁ。

──たとえば5年後の姿とかどうでしょう? さっきのお話でもそうでしたが、どんなスタンスになっていたい、みたいなことは気にしないということですかね?

Al Jarriem:そうですね。あ、でも5年後はアムステルダムか、LAか、ロンドンか、どこかに居ます。ここから脱け出そか、みたいな話はしています。

──それは海外でも通用するミュージシャンとしてやっていくためですか?

Al Jarriem:いや、それと関係なしに行きたいです。

──じゃあ“ライフスタイルを変えるため”?

Al Jarriem & JOMNI:そうですね(笑)

CirCurationに選んだ理由


──山中さんはどこでPee.J Andersonを知ったのですか?

山中:最初は今年4月のINNITっていうイベントで見たんですが、その前から名前は知っていました。名前がそれっぽいし、日本で音楽活動しているそういう方もちらちら居るんで、外国の方なのかなって思っていたんです。でも実際に本人たちを目にすると「おやおや?」と。見た目もフレッシュだし、イケてると思ったのが第一印象でした。

──じゃあ1回しか見ていないんですか?

山中:そう1回しか見てないの(笑)だからそこからSoundCloudを見つけて、彼らの音楽を聞いていました。

──でも今回ピックをお願いしたとき、即答でしたよね。

山中:一度イベント見た上で私の解釈をして、これは行けるなって思ったんですよね。

──それはどういう解釈ですか?

山中:100%じゃなくて、荒削りなところが良いんですよね。「この子たちを見て行きたい!」みたいな(笑)

──荒削りってのは、具体的にどこでしょう?

山中:なんだろう。ライブを見ていて、ツッコミどころが満載って感じ? たとえば持ち時間が30分なら、30分にプレイが凝縮されるわけじゃないですか? だけど「おぅ、そう来たか…」みたいな部分もあって、なのでPee.J Andersonがこの先どうなるのか気になっています。
Pee.J Anderson
"Pee.J Anderson", unit by JOMNI and Al Jarriem. They started their own activity in Kyoto on 2016. When they first listened to Deep House their ass turned on fire at the same time and "Antidote",their first Deep House track, was uploaded on the internet.
山中麻里
Curation
CIRCUS Tokyo
Collaboration
山本勇磨
text
稲垣謙一
photo
山本恭輔
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