2019.11.04

#CirCuration Vol.2:S亜TOH

「亜種である」という意識が社会を変える

2018年に始動した、IFEOMA(アイフィオーマ)と松本一輝による音楽ユニット「S亜TOH(サトー)」。彼らの音楽を聴く限り、そのジャンルを聞くのは愚問な気がしたが、意外にもIFEOMA氏は「ポップス」だと答えた。一体彼らは何に属し、その本質はどこにあるのだろうか。

IFEOMA氏へのインタビューの中で「亜種」というキーワードが見えてきた。マルチカルチュラリズム(多文化主義)への抗いなど社会学的な動機も口にするS亜TOHが、作品を通して実現したいこととは。(松本一輝氏は不参加)

#CirCuration
CirCuration(サーキュレーション)

渋谷のエンターテイメントスペース「CIRCUS Tokyo」と Interim Report の共同プロジェクト。CIRCUS Tokyoが選ぶ次世代のアーティストに、スポットライトを当てる。 CIRCUS Tokyo

「エクスペリメンタル・ミュージック」に逃げない



──まずはS亜TOHの成り立ちから伺いたいのですが、いつ始まったのですか?

本格的に始めたのは今年からです。去年の夏から一年ほど僕がメルボルンに滞在していて、その間に日本にいる松本さんと連絡をとってスタートしました。

──お二人の役割はどのように分けられているのでしょうか。

僕はメロディ、ビート含めて、楽曲の原型を作っています。松本さんはravenkneeというスタジアムバンドではギターをやっているのですが、ミックスエンジニアでもあるので、S亜TOHでは主に編曲を担当しています。ライブでは松本さんがマニピュレートしつつギターを弾き、僕はボーカルを担当しています。

──S亜TOHの音楽って、ジャンルは意識していますか?

敢えてカテゴライズするならIndie ElectronicとかHIPHOPとかだと思うのですが、自分のなかではポップスのつもりです。「エクスペリメンタル・ミュージック」という体裁に逃げがちなんで、ポップスに落とし込もうという意識で、いつも制作していますね。

ポップスを目指さないとクオリティが下がる気がしていて。エクスペリメンタルだから伝わらなくて良いよって、僕はそれを逃げに使っちゃうのでポップスを選んだというか。そうしないと、作る意味はあるけれど、アウトプットする意味はないのかなと思います。

──同じモノサシを共有している人が多い場所で勝負することで、自らを追い込んでいるのですね。ちなみにIFEOMAさんの個人名義でも活動されているのですか?

Moscow Roomというグループで音楽を制作していました。去年の12月にAshida Parkというウィーンのレーベルから1曲リリースして、それ以降は個人ではあまり活動していませんが、国内外の気になったアーティストに作曲したトラックを送って、一緒に楽曲制作するプロジェクトを始める予定です。

理想は結果的に「ポップス」になっていること



──強く影響を受けたアーティストがいたら教えてください。

中学のときにトム・ヨークから音楽に入ったので、自分にとってのレジェンド的な存在は彼ですね。最近は、Sega Bodega(セガ・ボデガ)やShygirl(シャイガール)、国内だとラッパーのTohjiさんや、そのトラックを制作しているMURVSAKIさんは参考にしています。音自体はエグいけど、曲として綺麗にまとまって結果的にポップスになっているのが、僕の目指しているものと近い気がします。

──S亜TOHとして、リリースしてみたいレーベルなどはありますか?

いま挙げた、Sega BodegaやShygirlが楽曲をリリースしている、NUXXE(ヌクセ)というレーベルですかね。音はエクスペリメンタルぽいっけど、曲を通して聞くとポップス感あるのが良いですね。NUXXEからリリースしたい気持ちはあります。

──IFEOMAさんは読書量もかなりのものだと聞きましたが、音楽以外にも刺激の源泉はありますか?

高校のときに集めていた安部公房には影響を受けているかもしれません。シュルレアリスム(超現実主義)の作家で、読んでも内容が理解できないんですけど、意味がわからない感覚が良くて。無機とかゴミとかの側に立って記述する世界感が好きでした。とくに意識して音楽を作ることはないですけど、文学は無意識に反映されているかもしれないです。

自分が亜種であるという意識の先にあるもの



──ここをハズすとS亜TOHではなくなる、と言える本質はどこにありますか?

普通にみんな幸せになって欲しいんですよね。社会からどうしたら差別主義が無くなるのかな、みたいなことが根本的な問題意識として有って。たとえばレイシズムとかセクシズムとかって、不均衡とか構造とかから生まれるじゃないですか。レイシストは本来的にレイシストなのではなくて、構造がそうさせるだけだと僕は思っているので。

ただ、そういう社会的な不均衡をマルチカルチュラリズム(多文化主義)で変えていこうっていう話はよくあるんですが、僕はその考え方が嫌いで、限界があると思っています。ユニバーサルとかマルチとか、聞こえのいい言葉を耳にするたび思うのは、誰がそれを決めたんだ?っていうことで、そういう意味では、例えば多文化主義みたいな思想って、不均衡の温存にしかならないかなと。

僕が理想と考えるのは、最終的には多文化的になるかもしれないけど、最初からそれを目指すのではなくて、自分が亜種であるという意識をみんなが持っていたら、特定の形に依存しない点の集合になるんじゃないかなと。S亜TOHの名前はそういう意味で、亜種と自称することは止めたくない。

なので、本質はそこにあるかもしれないですね。「自分は亜人だ」みたいな意識をみんなが持つことがポップになったら、みんな優しくなれるし幸せなんじゃないかなと。

楽曲制作のプロセス



──作曲するときのプロセスはどのような流れですか?

S亜TOHの初期に作っていた曲は、僕はメルボルンで松本さんは日本にいたので、リモートで制作していました。僕が「こういうのどうすか?」みたいな感じで作ったものを共有して、松本さんからフィードバックが返ってくるような流れですね。今もリモートで作っていますけど、最近はなるべく集まって作るようにしています。

──制作環境はどんな構成ですか?

DAWはAbleton Live 9(Ableton)を使っています。僕が曲の原型を作るときは、面倒くさがりなんで内蔵の音源を使っちゃうことは多いですけど、松本さんは音源にはこだわりますね。なので、僕が勢いでバーと作って、松本さんに振ったらリッチにしてくれるという流れで、良いバランスですね。

ハードウェアは面倒くさくて、使っていません。松本さんのギターを入れるときは、音源をもらってサンプリングして入れるみたいな。ぶつ切りにしたり。

──いま曲作ろう、みたいな瞬間ってどういうきっかけが多いですか?

中学のときにギターを始めたんですけど、そのときからあんまりなにも考えずに作曲したりしていて、それが習慣化している感はあります。そういう意味では、S亜TOHとか、Moscow Room、IFEOMAの名義ごとに何か決めて作るっていう瞬間はあまりないかもしれません。「作んなきゃ」と駆られるときもありますけど、そういうときは大体調子が悪くて、何もできないですね。

あとは、例えば曲のアウトロがあって、そのあとにこういう曲が来たらカッコいいかもしれない、といった感じで作り始めることが多いかもしれないですね。



──では最後に、2019年11月6日(水)に開催のInterim Report edition4にご出演いただきますが、どんなパフォーマンスをする予定ですか?

最近、なんかトラップかっこいいなって思ってる時期なんで、トラップのカッコいい部分をうまく取り入れて昇華したいです。詳しいところは恥ずかしいので内緒で。

CIRCUS Tokyoのコメント


IFEOMAとは出逢って3年になりますが、彼は凄まじいスピードで成長し、表現する世界観も変化し続けています。メルボルンへの滞在を経て、その変化の途上でこのS亜TOHが誕生しました。

いつもは半目で声も小さく、とても弱々しく優しく話す彼が、毎回とんでもない声量と迫力と狂気とオーラを身にまとい、圧巻のパフォーマンスを見せてくれます。

ステージの見せ方へのこだわりも強く、何度も会場へ足を運びストイックに研究する姿も印象的です。そんな彼にはとてつもない可能性を感じて目が離せそうにないので、CirCurationにピックアップさせていただきました。
S亜TOH
Moscow RoomとしてAshida Parkからリリースするなどエクスペリメンタルを中心に活動してきたIFEOMAと、ravenknee/phaiのギター、サウンドエンジニアリングを手がける松本一輝がオンライン上で結成した「亜種」を自称する音楽ユニット。今年8月にIFEOMAがメルボルンから帰国し、8/30にCIRCUS Tokyoで主催パーティー「亜」を行うなど活動を本格化させている。
CIRCUS Tokyo
Collaboration
山本勇磨
text
稲垣謙一
photo
山本恭輔
edit

Related