2019.11.04

#Introduction:kyoheifujita

#Introduction
Interim Reportをとおしてアウトプットする人や組織にインタビュー。活動内容やその背景、制作環境について聞く。

多彩な音楽的背景と意外な着地



──kyoheifujita名義ではどんな活動をされているのですか?

今月はちょうど、久しぶりに新しいアルバムをリリースするのですが、実は2014年にopus0.1をリリースした後は、なかなか新作の公開にまで至らない時期でした。

お仕事のほうは真逆で、最近はありがたいことに少し波に乗れてきている感じがあって、広告やゲームの案件などをさせていただいています。やっぱりゲームのBGMや効果音を作ってほしいという依頼が多いですね。その他に、演劇の音の担当させていただくようなものもありました。

初のソロアルバム「opus0.1」ジャケットデザインはm7kenji氏(2014)
──音源を聞かせていただくと想像に難くないですが、対応できる守備範囲が広いですね。

他のメディアのコンテンツに音をつけることがすごく好きなんですよ。
なので、多方面にご相談いただけることはむしろありがたいというか、とても楽しくやらせていただいてます。

僕にはチップチューンのイメージが付いていると思うんですが、生の楽器だけで作った音楽とか、完全な受注案件の場合は、本名の藤田喬平で発表したりしてます。線引きは微妙なんですけど。

──音楽制作はどこかで学ばれたのですか?音楽を始めてからこれまでの歴史を教えてください。

4歳の頃から高校まで、クラシックのピアノを弾いていました。並行して、中学高校の6年間は吹奏楽部、高校の後半から大学の前半くらいまではロックバンドという感じで。当初ピアノは嫌々やってる感じだったんですけど、吹奏楽で人と合わせることを覚えてから楽しくなってきて、でもだんだんと人と合わせる社会的な能力が低いことがわかってきて(笑)

──社会的な能力(笑)

音楽をやること自体は楽しくなってきたので、一人でピアノを弾くほうに戻ろうと思ったんですけど、PCでひとりで全部作れる電子音楽だと、人付き合いもないし、最も楽なんじゃないかということで。

もうひとつ電子音楽に進んだ理由としては、フィジカルな演奏能力を必要としないことがあります。当時、ジャズピアニストの上原ひろみさんに憧れて、大学のジャズフュージョンサークルでコピーバンドとかやってたんですけど、僕はクラシック上がりでジャズのアドリブがうまくできなかったんです。でも僕は、それで、半ば逃げ道じゃないですけど、フィジカルな演奏能力がなくても、情報を入力すれば音源として成立する電子音楽の世界が魅力的に思えたんですよね。

完璧なトレース指向が分けた明暗



──上原ひろみさんのトレースはさすがに心が折れますよね…そこでチップチューンを始めるのですね。

ピアノをやっていたおかげで絶対音感があるんですが、チップチューンって音作りの知識があんまり必y…ちょっとこれ、本格的にやってる方に言うと怒られちゃうかもしれないですけど、当時の僕の印象としては「これ音程がわかれば作れるじゃん」って思って(笑)

YMCKってアーティストがすごく好きだったので、やっぱり耳コピでトレースするところから始めて、本当に完全コピー音源みたいな、聴き比べても違いがわかんないくらいのを何曲も作りました。そこで学んだことを自分の曲作りに応用していった感じです。

──チップチューンを始めた動機が絶対音感のある人ならではですね(笑)ちなみに、そのトレースしまくったYMCKさんの中で、好きな作品を一つ挙げるとしたら?

あ〜、それ難しいですね!んーと、でもやっぱり、1stのFamily Musicですね。YMCKさんってチップチューンでジャズをやってるんですよ。チップチューンってゲームボーイで作ることが基本なのですが、音楽を演奏するというより情報を入力するという感じの作り方で、一方のジャズは生楽器の演奏で作られるので、そこにはものすごく距離があるはずなんですよ。なのにYMCKさんはすごくしっくりくる音楽になっていて、おそらくそれを試したのは彼らが初めてだし、あそこまで魅力的なものに仕上げてるのはすごいなと思います。

YMCK「Magical 8bit Tour」(Family Musicに収録)

──なるほど、ジャズを経てチップチューンへ進んだフジタさんへの影響も大きそうですね。

以前、ボーカルありのポップユニットをやってたんですけど、それなんかは、YMCKさんと聴き比べると、手法については「あ、パクってんな」って思うと思います(笑)ご本人たちにそう聞こえるように作ってるつもりで(笑)

──ご本人たちがターゲットなんですか(笑)めちゃくちゃ好きだったんですね。

僕はけっこう、好きなアーティストさんにアピールしちゃうんですよ(笑)もちろん、自分が作ったものは色んな人に好きになってほしいですけど、僕が好きなものを作ってる人が僕の作品を好きって言ってくれるのが一番うれしいですね。

──実際にご本人まで届いたことってありますか?

YMCKさんの出演イベントに行って、自分で作ったYMCKさんのコピー音源や、真似したボーカルポップユニットの音源を渡したりした結果、いまではたまにゴハンに行ったり…

──マジすか(笑)なにかフィードバックはありましたか?

いや、あの、けっこう、マジでまんまだよって(笑)

いままでの歴史を踏まえた「次」を作りたい



──楽曲制作に一貫したコンセプトはありますか?

僕の創作はやっぱりトレース始まりが多くて、色んなジャンルを通って触れたきた好きな音楽の要素を拾って、自分の技術と組み合わせて、他に聞いたことないようなものを作るのことをやりたいんです。

ひとつのことを極められなかったので、色んなものを組み合わせていかないと太刀打ちできないっていうコンプレックスがあって、逆にそれが自分のらしさになっているんじゃないかなと思います。何かひとつに打ち込んでる人には作れないものが作れるかもしれないと思うので。

──たしかにそれは感じます。音楽としてクオリティ高く成立してるんだけど、概念やジャンルとしてはよくわからないというか。いろんな音楽を聞き尽くしてきた人とか、いろんな音楽をやり尽くしてきた人とか、玄人好みな感じしますよね。

それはけっこう狙ってやってるところなので、そう言ってもらえると嬉しいですね。クラシック音楽の文脈でも電子音楽の文脈でもそうなんですが、いままでやってこられたことの「次」が作りたいんですよね。

便宜的にチップチューンって言ってますけど、実は僕自身も自分の音楽がチップチップチューンだとは思っていなくて。色んな音楽を要素的に取り入れるという意味では、エレクトロニカと言うほうがフィットするかもしれないですね。いろんな技術や要素を取り入れて新しいものを作りたいので、手段にはこだわっていないことも影響していると思います。

海外メディア「Archipel」が公開したPixel Art Park 5のアーカイブ動画に楽曲を提供

音の素材には異常なまでにこだわる



──色んなアプローチで制作されるんだと思いますが、制作環境はどんな構成ですか?

DAWはAbleton Liveです。色々試した中で、MAXが一番おもしろいなって思って、LiveだとMAX for LIVEが使えるのが良くて、ほとんどそれで完結していますね。ループ機能は一切使ってないです。

ただ、手段にこだわっていないと言いましたが、音の素材にはこだわりが強くて、身の回りの音のサンプリングをよくしています。電子音楽って、例えばシンセサイザーで自由に波形が作れてってところに注目されがちなんですけど、楽器間の音量差を考えなくてよくなったことが大きいと思っていて。あまり言及されないですが、本来の音量がどれだけ小さくても、楽曲に取り入れられるのは凄い進化だなと。

例えば、シャーペンのクリック音って気持ち良いじゃないですか。そういう本来の音は小さすぎて音楽には使えないはずのものがいまは使える。スピーカーで大きな音で鳴らせるんだったら、絶対にそいつらをパーカッションに置き換えたほうが、気持ち良いリズムパートができる。これには確信を持っています。

──たしかにあまり言及されていないかもしれないですね。普通に生きてたら聞こえないような音も、逆に音楽には使えたりするのは面白いですよね。

前にテレビで見たのは、アリの足音とか。もちろんそれは専用のマイクとかが必要ではあるんですけど、誰か安く売ってくんないかな(笑)

──音そのものを楽しむのが好きなんですね。

ちっちゃい頃とかに、トイレの壁を叩いてみると、少し場所をずらすだけで音が変わるじゃないですか。そういうことをひたすらやっていたので、たぶんすごく好きなんだと思います。

──完全に天才音楽家のエピソードですね。

実はこれ、中田ヤスタカさんが言ってたエピソードとめっちゃかぶるんですよ(笑)彼は縁側の木の板を叩いて音の違いを楽しんでたって話なので、厳密にはちょっと違うんですけど。

──エピソードもトレースしていく!(笑)

違うんですよ!違うんですよ!(笑)

──失礼しました(笑)ところで、冒頭に仰ってた待望の新作が今月リリースなんですよね。

そうなんですよ。11月24日に開催のPixel Art Parkに出展するので、そこに合わせてリリースしようかと思っています。いま絶賛レコーディング中なのですが、ぜひ色んな方に聞いてもらえると嬉しいです。
kyoheifujita
都内を中心に活動する音楽家。チップチューンをベースにクラシック、エレクトロニカなどの要素を合わせた独自の音楽を作る。
稲垣謙一
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山本恭輔
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