隙間時間に作っていたドット絵が、海外からの反響を呼ぶ
──ヘルミッペ名義での活動内容について教えて下さい。
2012年位からドット絵を書き始めました。元々はペンで細密画を書いたのですが、当時仕事でやっていた映像やWebの制作が忙しくて、机に向かわなくても自分の表現ができるドット絵をはじめました。
アメリカではさらにその3年くらい前からGIFアニメーションが流行り始めていて、tumblrにあげると反応が良かったんです。そこに可能性を感じたことがきっかけですね。
──隙間時間にできる創作がドット絵だったんですね。
制作手法的にも、仕事でやっていたことの延長線上にあったので入りやすくて。ドット絵だと、レトロゲームの体裁や文脈に則った表現をすることが好まれると思うのですが、僕はそこ始まりじゃないので、表現方法自体を模索するのが楽しくてやっています。最近になってようやく自分の表現が楽しくなってきたくらいで。
──おぉ、最近なんですか。7年を経ての境地ですね。
そうですね。やってるうちに海外のインディーズバンドからジャケットのデザインを書いてくれとか、小さな会社さんからロゴを作ってくれとか、少しずつ広がっていくなか、2016年に
Pixel Art Parkという展示イベントに誘っていただきました。日本のドット絵の文化に触れて、それまでは海外の人が好みそうなものを作ってたんですけど、日本のカルチャーも見ながらやっていきたいなと方向転換があったんですよね。
その当時に
m7kenjiさんとも知り合って、
Square Sounds TokyoにVJで誘っていただいたりとか、おかげさまで国内でも広がりが出てきました。去年、アディダスのフラッグシップストア(原宿)の店内イベント用に、壁一面を使っての平面作品、映像、インスタレーションを制作させていただいたりもしました。
そのあたりから、個人でもコンスタントに展示をするようになりました。スマホとかPCモニタで表現されてきたドット絵を、別の媒体に持っていけたらいいなと思って、今年はリソグラフ(*)を使った展示をしました。デジタルだけど味がある表現になる点に注目した海外のアーティストや、自分たちでZINEを作るHIPHOPやストリートアートな人たちが取り入れるようになって、日本でも逆輸入的に使われ始めたって経緯があるものです。
* リソグラフ … 理想科学工業が1973年から提供している簡易印刷機。製版された原紙をドラムに巻きつけて印刷する。レーザープリンタやインクジェットよりも低コスト。
──海外で評価されたことが始まりだったヘルミッペさんと親和性が高い媒体ですね(笑)
そうなんですよ(笑)変わった媒体での制作だと、ブロックチェーンとドット絵を組み合わせた作品の展示「閉鎖国家ピユピル」を、
高崎悠介(ボルコアンテス)と二人でやりました。高崎はプログラマで、よく一緒に活動をしている相方みたいな存在です。ブロックチェーン関連の開発も個人的にやっていて、何でもできる天才的な人で。
ブロックチェーンは仮想通貨の基幹技術で、デジタルデータの複製や改ざんに制限をかけることができます。例えば、ソーシャルゲームのアイテムとかって、購入して一応所有はするんだけども、仮に運営会社が倒産してなくなったりすると、購入したデータもなくなっちゃったりする可能性があります。でもそのデータの所有者が証明ができたり、改ざんを抑制すると価値が変わるかもしれないですよね。そんなデータの移動履歴などがわかるブロックチェーンの仕組みにストーリー性を与えるために、そこに住んでいるであろう人「ピユピルの民」をアバターとして購入できるようにしました。購入した瞬間に、ブロックチェーン上で所有や譲渡が証明される状態になり、デジタルデータなのに自分のもとからなくなくなってしまうって状況がありうることを表現してみたりしています。
永続化するピクセル〜ブロックチェーン上のアート作品「閉鎖国家ピユピル」に心動かされた人々 : 仮想通貨 Watch
「NEM × ピクセルアート」をテーマに展示をします : nemlog
ちなみに、トークンだけを販売するというのも味気ないので、デバイスも作ったんですね。この中にいるのがピユピルの民っていう自分のアバターで、ボタンを押してページをめくるとQRコードが表示されて、ブロックチェーン用のアプリで読み込むと、自分のものにする手続きができます。
「閉鎖国家ピユピル」のトークンとなるデバイス。アバターのプレビューと所有権移動のためのQRコードが入っている
目的は、新たな表現方法に挑戦し続けていくこと
──Webや映像制作、デザイン、ブロックチェーンにデバイス開発まで、めちゃくちゃ多彩ですね。もしかして、他にもありますか?
他には、刺繍、ドット絵のライブペイント、サーキットベンディング、モジュラーシンセの製作とか。
──止まらないですね…!色々と表現活動をされる中で、最も大事にしてることは何ですか?
特徴を持って差別化することは常に意識しています。制作のコンセプトや手法がちょっと新しい挑戦になっているとか、これまでと違った表現方法を模索し続けていくこと自体が活動の目的だと思っています。
──ちなみに、様々なアウトプットをする中で、どこの部分を褒められると嬉しいですか?
褒められると何でも嬉しいですが、案件とかで「お願いして良かったです」って言われることですかね。制作物が良いことに加えて、例えば、納期をきっちり守るとか、打ち合わせの会話がスムーズとか、そういった周辺要素も含めて評価していただけたら特に嬉しいですね。短納期案件とかでも無事に応えられると、してやったぞ感があって(笑)
多摩ニュータウンの風景からの影響
──制作環境はどんな感じですか?
僕のドット絵はすべてスマホで作っていて、
EDGE touch(iOSアプリ)だけを使っています。ドット絵の制作ツールとして、昔からWindows OS用のソフトもあって、ゲームのキャラクターとか細かい絵を書く用のツールです。
ちなみにVJの素材も全部これで書いてます。
OP-Z(teenage engineering)っていうマルチメディアシンセサイザーがあるんですけど、VJをやる時なんかはこれだけで完結してますね。
──スマホでやりきることにこだわりがあるのですか?
普通はたぶんPCで大きい画面でやると思うんですけど、もともとのきっかけが場所に縛られないでやりたいってことだったので。あとは、僕の強みは納期を守ることだと思うんですけど、それを実現するために一役買ってくれています(笑)少し早めに完成させるのがマイルールなので。
──ところで、ヘルミッペさんの作風は少し陰鬱な雰囲気が漂っていると感じるのですが、どんなコンセプトで制作されているのですか?
それは性格ですね〜(笑)僕は多摩ニュータウンで生まれまして、ジブリ映画の「平成たぬき合戦ぽんぽこ」の、たぬきを追い出した跡に住んでるんですけど。すごく計算された都市で、例えば車道と歩道があまり交差しないように作られていたりとか、歩道を広く取って有名な建築家が作った陸橋が見えやすくなっていたりとか、不思議な雰囲気の造成地で、夜に変な感じで浮かび上がったりする街路樹とか、妙に先進的な建築物とか多くて、そういう風景に影響を受けている気はします。兄貴もデザイナをやってて同じことを言うんですけど。
ニュータウンの景色を元に、ヘルミッペ氏が描いたイラスト
──なるほど、言われてみればわかる気がします。特徴的なドット絵の技法にも影響はありますか?
色の差で陰影を出すのがレトロゲームの手法なんですけど、僕の場合は陰影の部分だけを一色で書いたりして、二値だけで、色の有り無しでだけで立体感を出したいと思ってやっています。それはやっぱり、ちっちゃい頃から見ていた景色の影響を自分でも感じますね。