2018.08.17
ベートーヴェンやモーツァルトが作った「クラシック音楽」が現在も作り続けられているとしたら、それはどんな音楽になっているのだろう?

クラシック音楽の流れを汲む音楽、それが大久保雅基(おおくぼもとき)が行なっている「現代音楽」だ。

今でこそポピュラーなクラシック音楽だが、17世紀当時のクラシック音楽は「大衆音楽」ではなく、宮廷で演奏された「宮廷音楽」だった。一方、現代音楽はというと、現代のダンス・ミュージックやヒップ・ポップといった「大衆音楽」と対になり、学術や芸術の対象となる音楽だ。

クラシック音楽の流れを汲み、「大衆音楽」の反対側からアプローチする現代音楽とは一体、何なのだろうか?
#backstage
9月2日にCircus Tokyoで行なわれる「Interim Report edition3」に出演するパフォーマーを紹介する。学術的アプローチと、野良のクリエイティビティ、そしてナイトクラブカルチャーが交わる本イベントで、どんな試みを見せてくれるのだろう。 Interim Report edition3

Interim Report edition3でのパフォーマンス



──前回のInterim Report edition2にも出演いただきましたが、パフォーマンスの内容はどんなものでしたか?

自作のダンスミュージックのDJです。四つ打ちとか、ダブステップとかを流しました。ただ、いわゆるクラブミュージックともちょっと違って、ごちゃごちゃに混ざってました。トランスとかベースミュージックだったり。

──なぜDJをチョイスしたんですか?

正直な話、NxPC.Labのイベントに出演したときに電子音響系のパフォーマンスをやったら、お客さんがどんどん帰って行ったんですね。自分がやってて辛かったので、前回のInterim Reportでは、劇伴で作った音楽をクラブだからDJでかけたという感じです。そしたらみんな帰らない(笑)

──なるほど(笑)Interim Report edition3では、具体的にどんなことを行ないますか?

クラブでパフォーマンスをやるなら、お客さんが踊って楽しむ場所性を考えて、踊るきっかけになるような音楽をやるべきかなと。なので、次回もクラブミュージックとしての四つ打ちや、ダブステップのブレイク系のビートを使ったDJを行なう予定です。ただ音の生成の仕方の部分で、DAWではできない、Max(Cycling '74)で処理をかけた方法などを考えています。

それに付随して、今回は映像も使おうと思っています。ライブコーディングに近い形なんですが、自作したソフトウェアのシンセサイザーみたいなものを、操作している様子を見せようかなと思っています。どんな処理をして、どんなクラブミュージックを流しているのかを視覚的に見せられるようにしたいなと。

音の聴き方を拡張する現代音楽

──『絶頂』の公式ページに書いてある、「現代音楽ほど創造的で、音楽の聴き方を広げる音楽はない」という言葉が印象的です。これ、どういう意味なんですか?

現代音楽の作品は、すでに作られた音楽に対して、聴き方を拡張するために作られているものが多いと感じています。拡張とは、その作品を通して知らなかった体験や考え方ができるということですね。



で、そのページに載せているのは、大衆音楽に対することを書いています。

いわゆる大衆音楽っていうのは、形が一定じゃないと多くの人が認知しにくいので、音楽的に固定されてしまっていると思っています。相変わらず“ABサビAB”みたいな形式はあるし、多くの人に受け入れてもらうにはフォーマットを合わせないといけないんですね。もちろん、それでもすごくカッコいい曲はいっぱいあるんですが。

そういった大衆音楽に対して、音楽のフォーマットや聞き方をもっと豊かにできるのが現代音楽だと思うんです。たとえば、現代音楽で有名な作品にジョン・ケージの『4分33秒』がありますよね。当時コンサートで演奏される音楽といえば、ステージ上で演奏される音の情報だけでした。そこで4分33秒は、「ステージで演奏しないの?」っていう驚きで観客をざわざわさせたんですね。そのざわめきが音楽になっていて、ホール全体にある音が音楽に含まれるという聞き方を広げたんです。そういった音の聞き方の解釈を広げるのが現代音楽だと思っています。

僕が制作している、映像作品と弦楽四重奏で構成したコンサートシリーズ『絶頂』では、「いまの音楽の聞かれ方」に対する批判が含まれています。

Unityで制作された人工生命の環境。一見、音楽とは無縁そうな制作画面だが、『絶頂』で演奏されるのは4隅の音符である。肉食動物(黄色)が草食動物(オレンジ)を食べている様子。肉食動物、草食動物を含め4つの個体が生息して、人工の生態系を生きている。『絶頂』では、個体の合計数や、それぞれの個体数などで演奏する音程やBPMが決定する。

音楽は音に情報が込められているので、本来なら集中して聞くものなんですが、今の時代、作業しながら聞くものになっていたり、映像と一緒になって当たり前、むしろ映像のほうが強くなったりしています。それを逆手にとって、映像に合わせる音楽をコンサートで演奏してしまおうと思ったんです。

『絶頂』ではお客さんはじっくりステージを見ているんですが、集中しているのは映像のほうという不思議な構図が生まれるんです。「音楽の聞かれ方が変わった」という現象を提示をしたいと思っています。
大久保雅基
1988年宮城県仙台市生まれ。アコースティック楽器や演奏行為にテクノロジーを組み込み、生演奏にデジタルの所作を融合させた作品を制作している。洗足学園音楽大学 音楽・音響デザインコースを成績優秀者として卒業。情報科学芸術大学院大学[IAMAS]メディア表現研究科 修士課程修了。現在は作編曲、録音、ミキシング、マスタリング、音響設計、音響装置の制作をしながら、名古屋芸術大学芸術学部芸術学科デザイン領域、愛知淑徳大学人間情報学部の非常勤講師をしている。先端芸術音楽創作学会、日本電子音楽協会会員。
山本勇磨
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稲垣謙一
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山本恭輔
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